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福岡地方裁判所 平成5年(わ)254号 判決

本籍

福岡市博多区住吉四丁目七番

住居

不定

無職

吉村憲生

昭和二二年六月一五日生

右の者に対する法人税法違反幇助被告事件につき、当裁判所は、検察官大脇通孝出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人を懲役一年に処する。

一  未決勾留日数中四〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、福岡市中央区大名一丁目一二番五六号に本店を置き、不動産売買等を目的とする株式会社フジカ代表取締役としてその業務全般を統括する加藤康之が、同会社の業務に関し法人税を免れようと企て、同会社が行った医療法人出資持分の取引を被告人名義で行って同会社に売買利益が発生しなかったように仮装したり、不動産売買仲介手数料の一部を除外するなどの方法によりその所得を秘匿した上、平成二年一〇月一日から同三年九月三〇日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一一億五二六七万四〇七〇円(別紙(一)修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益が一〇億四二五二万五〇〇〇円であったのにかかわらず、同年一二月二日、同区天神四丁目八番二八号所在の所轄福岡税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一二〇九万五四八五円で、これに対する法人税額が三三二万一九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額七億四四〇八万二三〇〇円と右申告税額との差額七億四〇七六万四〇〇円(別紙(二)税額計算書参照)を免れるに際し、その情を知りながら、同二年一二月上旬ころ、同市南区長住二丁目二一番二二号エスポワール長住九〇一号室右加藤方において、真実は同会社が齊藤辰巳、ミヤから医療法人斎藤外科病院の出資持分を譲り受けたのにこれを秘し、あたかも右持分を被告人が右齊藤らから譲り受けたように仮装し、譲渡人を右齋藤ら、譲受人を被告人とする内容虚偽の出資持分譲渡契約書を作成し、更に、同会社同医療法人から取得した不動産売却仲介手数料の一部に関し、被告人が同医療法人から金二九億七一四七万六〇〇〇円の仮払いを受けた旨の内容虚偽の仮受書を作成するなどして加功し、もって、同会社の犯行を容易ならしめてこれを幇助したものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する各供述調書(平成五年三月二七日付けを除く。)

一  加藤康之の検察官に対する平成五年三月四日付け、同月五日付け、同月八日付け、同月九日付け、同月一〇日付け、同月一一日付け、同月一二日付け、同月一四日付け(丁数が三丁のもの)、同月一五日付け及び同月一六日付け各供述調書

一  加藤美文(平成五年三月六日付け、同月一二日付け、同月一三日付け、同月一四日付け、同月一五日付け及び同月一六日付け)、齊藤辰巳、斉藤ミヤ、齊藤照子、榎本憲一、西良弘、平井耕一郎、笠野隆則(同年二月二〇日付け)、大原重信、山下正三、池田賢一、綾部詔三、菊田善太郎、勝又浩二(平成五年二月二五日付け、同年三月一〇日付け及び同月一一日付け)、太田敏夫(平成五年二月一〇日付け、同年三月一五日付け、同年二月一三日付け及び同月一八日付け)、山浦清志(平成五年三月一二日付け)、福元健也(平成五年三月九日付け)、伊藤豪、法師山博、米村雄二、二井隆博、目黒正志、廣末哲也、浅田健一、吉川英治及び堀田伸一の検察官に対する各供述調書

一  検察事務官作成の報告書(四三枚綴りのもの)

一  収税官吏作成の平成五年三月一七日付け脱税額計算書説明資料

一  収税官吏作成の平成五年三月一六日付け査察官調査書

(法令の適用)

被告人の判示所為は、刑法六二条一項、法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑を選択し、右は従犯であるから刑法六三条、六八条三号により法律上の減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、同法二一条により未決勾留日数中四〇日を右刑に算入することとする。

(量刑の理由)

本件は、株式会社フジカの七億円余りという巨額の法人税逋脱について、いわゆるかぶり屋として介在し、本犯の所得の秘匿を容易ならしめてこれを幇助したという事案であるが、虚偽の関係書類を作成し、更には、右犯行が発覚しないように、被告人名義で八億円近くの所得があったものとして確定申告をなし、税務署の目を欺こうとした所為は、極めて狡猾で悪質といわざるをえない。しかも、被告人は、右行為の報酬として四千万円という大金を取得しており、その反社会性は強い。又、被告人は、懲役前科五犯罰金前科二犯を有しており、昭和六三年一月一三日には恐喝罪により懲役一年六月、四年間執行猶予に付されたにもかかわらず、その猶予期間中に金に目がくらみ、本件を敢行し、自ら社会内における更生の機会を踏みにじっており、犯情は芳しくない。

従って、被告人は、現在では自己の非を認め、反省の態度を示していること、出所後の身元引受人がいること等の事情を考慮しても、主文の刑に処するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金山薫 裁判官 鈴木浩美 裁判官 甲斐野正行)

別紙(一)

修正損益計算書

〈省略〉

〈省略〉

別紙(二)

税額計算書

〈省略〉

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